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ふわ。
「………?」
『咲良さんの15年間をたどれば、あとは最後の仕上げです』
「………」
病院から隠し宮へと封じられた咲良。
迎え入れた付喪神や式神は、日々世話を焼き、家族からは得られなかった愛情を咲良に注いでくれた。
「私の指導は厳しいですからね」
「はいっ」
そして。
宮司は持てる知識を咲良に授けてくれた。
勉強も、神事も、術も、舞いも…。
穏やかに過ごす日々の中、実家に届いた矢文…。
身代わりを申し出、沢山の料理やプリンを作り…。
ふわ。
「………?」
視界を柔らかな光が包み込んだ。
◆◇◆
「お?」
フワリと浮き上がる感覚のあと、急に重力の向きが変わった。
不思議なことに、驚く家族の顔が何故か逆さまに見える。
高い位置にある鉄棒から下を見ているような感覚だ。
「ん?」
「え?にーちゃん!?」
「うそ!」
「いきなり生えてきた!」
宮司が出てきたのと同じように、空中から現れた状況なのだろう。
付喪神や式神が慌ててクッションになりそうなものを探すが、座布団くらいしかない。
「器用だねぇ、守弥」
「あ、いや、その」
「取り敢えず、童子を渡しておくれ」
「お、おう」
式神に童子を手渡して縁を手がかりに出ようとした瞬間、磁場が一瞬たわんだ。
「は…?」
「あ?」
「あ、あぶない!」
何故だと思う間もなく、重力に引かれるままに守弥は落下した。
ずどどんっ!
「い、いてて…」
「あいや~、間に合わなかったわ~」
「済まんのぅ」
「座布団だけでも敷いてやりたかったんじゃが…」
「いや、いい…。
咲良の真上に落ちなかっただけでも、ラッキーだった」
慌てて付喪神が避難させてくれた咲良の前に座ると、童子が二人の間にチョコンと座る。
「守弥さま、これを」
「あ、ああ」
童子が懐から取り出した包みを、守弥は受け取る。
淡い色合いの紗に包まれていたのは、栗ほどの大きさの玉だった。
「………鼓動…?」
「咲良さんの魂と共鳴りしています。
息を吹き掛けてあげてください」
「あ、ああ」
宮司に言われた通りゆっくり息を吹き掛けると、玉が仄かに光り出す。
「もう少し」
「……ああ…」
そうっと息を掛けると、更に光が増した。
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