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二人の声は、微かに周囲へも響いていた。
呼び掛けに障らぬよう、ばあ様と宮司は小さな声で話す。
『咲良さんは見た目に反して強情なところがありますが、さすが対の鬼…。
頭ごなしに言うよりも、大事な対が困ると説得するとは…』
『甘噛みが成立してるからねぇ…。
それに、さくらは守弥の事を深ぁく想っていた。
並みの鬼と姫の繋がりじゃないくらいにね』
『そうですか…』
見た目が幼い分、そういった部分の成長も遅いのではと思っていた。
そうではなかったと知り、宮司には胸を撫で下ろす感覚がある。
『最初はままごとみたいだったけど、だんだん変わってった』
『んだんだ』
『お互いに想い合っててなぁ…』
『わしらもキュンキュンしたべよ』
『んだんだ』
『かんわいくてなぁ』
『尊いって、まさにあれだよなぁ』
二人が甘噛みを交わすまでのことを、付喪神や式神はずっと見守っていたのだ。
微笑ましい関係から、恋する関係に変わるまでを。
『ならば、心配は要りませんね。
対の鬼に任せましょう』
『ん?何処に行くんだい?』
『ええ、まぁ、関係各所に連絡といいますか…』
『………?』
『この場はおばあ様にお任せします。
すぐに戻りますし』
『そう…かい?』
『ええ』
穏やかで、何となく吹っ切れたような表情で笑み、宮司はその場を離れた。
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