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ばあ様と宮司が話している間も、守弥は説得を続けていた。
その言葉に絆されずに過去の罪を償わなければという思いと、魂魄にまで染み込んだ恋慕の情の間で揺れる咲良を。
『いいんだ。
遠い遠い過去の事まで背負っていたら、人はみんな生きてはいけなくなる。
そんなに思い詰めてしまえば、香久良の心はいつまでも眠ることが出来ない』
『………』
『遠い過去を忘れて生きることは、罪なんかじゃない』
『罪では、ない…』
『香久良が悲しい最期を迎えたのなら、今のお前がその分幸せになればいいんだ』
『わたくしが…?』
『ああ。
ずうっと自分を罰し続けるなんて間違ってる。
戻って来い。
べったべったに甘やかすぞ』
『………』
守弥の答えに一瞬沈黙が訪れる。
「そ、そうだ!
わしも甘やかすぞ!」
「おいらも!」
「私もです!」
「戻って来いよう、さくら!」
「いっしょにお菓子食べよう!」
「うさこ!帰ってきて!」
「帰ってきてよう!」
堪らずに雲外鏡が叫ぶと、付喪神や式神、子供達が追随した。
『………みなさま…』
『な?』
『……ありがとう…ございまする…』
抵抗がなくなり、石像に紗がぴったりと巻き付く。
全体が包まれると、何度か淡く明滅を始める。
しゃりぃいい……ぃいん…っ!
しゃあああ…っ!
複雑に絡まるような鈴の音が響いた。
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