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◆◇◆
「私が席を外している間に、あまあまな雰囲気からの甘噛みとは………。
なかなかやりますねぇ、守弥どの」
「そりゃあねぇ…、石になる前よりもっと可愛くなってるからねぇ…。
対の鬼としては黙っていられなくなるだろうね」
「おや。そんなにですか」
「ばばが思うに、守弥のストライクゾーン直球ど真ん中だねぇ。
元々、咲良は守弥が好きで仕方ないのは変わりないし、守弥も満更じゃない様子だし…」
「ほほう…。
恋愛など欠片も知らなかった咲良さんがそのようになるとは…。
中々に情の深い対を捕まえたものですね」
「ふっふっふ…」
壁に凭れて座る守弥は居づらそうに視線を移す。
そんな守弥に背中を預ける咲良は、半ばうとうとしながら荊櫻に診察されていた。
「ふぅむ…。
前にあったザワザワしたものが綺麗に抜けてるな…。
魂の核も鬼に返って対価の痣も消えてる。
まっさらだな」
「そうなのか?」
「これだけまっさらなのは、生まれて直ぐの子供くらいじゃないかな。
純粋で綺麗な魂だ。
以前診た時のような疲弊も消えてる。
魂魄のほつれも無くなってるし、これなら天寿を普通に全うできる。
良かったな、鬼」
「………」
「ホッとするのは早いぞ。
お前の命の危機が去り、石化も解けた。
これからがある意味、お前に課される試練なんじゃないか」
「………?」
「石化の前よりも対が爆裂的に可愛くなってるのは分かってるだろう?
ずうっと抱えてきたお前の魂の核が抜けて、使い果たした力も戻さなきゃいけない。
その空白をお前に対する情で埋めるのは目に見えてる。
多分だが、お前が竜絡する前に咲良が無意識に竜絡しにかかる。
本人に自覚がほぼ無いから、お前の忍耐力次第だ。
式まで我慢が利くか見ものだな」
クスクス笑う荊櫻に、守弥が口をパクパクさせる。
茶菓子とお茶を運んできた式神が、咲良にハーフケットをかけた。
付喪神たちも腰を下ろして一息つく。
「さくら、すんごい可愛くなってるなぁ」
「気のせいではなかったのですね」
「凄かったよ。
紗が弾けて零れてさ。
そしたら、前よりもっとかんわいい咲良がさ…」
「ほう…」
「わし、しっかりしゃったーちゃんすしとったよ。
観るかぁ?」
「興味深いな。見せてくれ」
「おう!」
雲外鏡が腹の鏡に映し出すと、荊櫻が食い入るように見つめた。
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