297 / 668

守弥の手が視線に入った瞬間。 …………くらり。 視界が揺れた。 咲良の心と、過去の咲良の心が重なる。 ………………今ではなく 近い過去でもない。 とおい…… はるか遠い………………遠い過去の自分が覚えていたこと……。 気がついたらもう好きだった。 ずっと……、ずっとずっと好きだった。 身も心も、魂魄にいたるまで。 黒髪に指を絡めてもらい。 狩りの為の服を縫った。 破魔の大弓を引く姿にため息をこぼし。 星読みの丘で将来を誓い、飾り紐を交換した。 嫁ぐ日を心待ちにして。 ひと針ひと針、心を籠めて衣裳を縫った。 「…………っく……」 ひとを好きになると、心が浮き立つものだと咲耶から聞いていた。 でも。 好きだという気持ちが深くなればなるほど、起源の咲良と心が重なるほど。 切なくて。 苦しくて。 ………………胸が痛くて仕方ない。 ほんの数ヵ月前までは、何一つ想像できなかった。 幼い姿から成長することを。 守弥に恋をすることも。 恋が、こんなにも苦しいと知ることも。 そして、唐突に思い出す。 咲耶や家族たちの災厄を引き受けたことで、自らの命を削り続けてきたことを……。

ともだちにシェアしよう!