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守弥へ抱いた恋慕の情。 それに気が行っていて完全に失念していた。 自分に残された時間は決して多くはないのだということを。 『………守弥さまはお優しい。 きっとわたくしが抱いた想いを受け入れてくださる。 でも……それで本当によいのでしょうか……』 受け入れて貰った直後に命が尽きてしまったら……。 『守弥さまの未来を、更に閉ざしてしまうのではないのでしょうか……』 守弥への想いを抱いたままでいるのも苦しいが、命が尽き果てた咲良に守弥が囚われたままになるのも苦しい……。 『もしかしたら、完全に想いを伝えずにいる今が好機なのかも知れませぬ……。 今なら、この本宮から抜け出せるやも……』 今すぐ姿を消してしまえばいい。 完全に守弥が寝入っているこの時ならば。 『………………っ』 そうっと寝台から降りればいい。 なのに。 『………………っ』 手も、足も動けない。 『わたくしが消えて咲耶が嫁ぐ……。 それが正しいというのに……っ』 いけないと分かっているのに、体が言うことを聞いてはくれない。 『わたくしが……っ、贄姫であったなら……。 初めから……守弥さまだけの姫であれたなら良かったのに……っ。 離れなければならないのに……』 決心したのに、動けない。 『………………っ』 熟睡している守弥の手が、何かを探している。 シーツの上を滑って銀髪を指に絡めた瞬間、嬉しさと申し訳なさで心が千々に乱れた。

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