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長い長い旅の終わりに
咲良の帰還は、皆にとってこの上なく嬉しいものであった。
「あのさ、今言うのもなんだけど…解体したベッド、元に戻さなきゃなんないよねえ…」
「「あ………」」
まったり茶を飲んでいたが、時雨の呟きでその場にいた皆が固まった。
組み立てをせねばならないと、守弥が立ち上がる。
「わたくしも…」
「そんなに手間はかからないから大丈夫だぞ」
「でも…」
「手伝いたいのは分かるよ~。
でもさ、戻ってきたばっかでまだ足がふらついてるでしょ。
ばあ様と一緒に待ってよっか。ね?」
「う…」
魂魄の疲弊は抜けても、体力の戻りは別。
立ち上がろうにも、生まれたての小鹿のように足がふるふるしてしまうのだ。
厚めの座布団を引いた上に寝かされて、起き上がるのもやっとで。
「直ぐに戻る。
これを預かっといてくれ」
「………はい…」
上に着ていたシャツを掛けてもらうと、安心する香りで鼻腔を満たされる。
「まだ体も冷えてる。
あとでゆっくり風呂にも入らなきゃな」
「……はい…」
髪を指で軽く梳いてやり、守弥が部屋へ歩いていった。
「お手伝い…いたしたいのに…」
「たまには甘えるものですよ」
拗ね気味の咲良を窘めたのは宮司だ。
「………なれど…」
「役に立ちたい、立てる人間でありたいと強く願う気持ちは分かりますよ。
でも、いまは実際に歩くのも覚束無いのですからね。
たまには甘えておくのも良いのでは。
というよりも、少しは寝ておきなさい。
試練を乗り越えた鬼の甘やかしは、尋常ではありませんよ」
「う、…」
反論したいのもやまやまだが、鬼が思うようにするのも姫の役割だと諭され。
しかも、傍らには無言で睨みを利かせる荊櫻もいる。
大人三人からの圧を感じて、咲良は目を閉じることにした。
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