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「これ、ほら、かわいらしいでしょう?」 「ほおぉぉぉ…。よちよち歩きが堪らないねぇ…」 咲良を起こさないように小声で話す二人の間にあるのは、ばあ様のタブレットと宮司のスマホだ。 「子供用の巫女服もいいねぇ」 「袖が邪魔にならないようにしてるでしょう? 背中で結んだ紐がリボンっぽくて」 「乳幼児特有の覚束無い足取りが堪らないねぇ…」 咲良に付き添う荊櫻のスマホにも転送すると、グッジョブ!いいね!と反応がくる。 「…ああ、おばあ様はパソコンもたしなむでしょう? このUSBとマイクロSDに、たっぷりかわいらしい映像と動画の数々が…」 「なんてグッジョブなんだい…!」 「愛でる用と保存用をお渡しする代わりに、此方に来てからの咲良さんの画像と動画を…」 「ふむふむ…。トレードだね。 そういえば、さくらはあまり最近の電子機器とか知らないみたいだけど、お前さんは普通にスマホを持ってるって…。 んん…?」 何となく浮かんだ疑問。 電子レンジもオーブンも咲良は知らなかった。 なのに宮司は最先端のスマホを所持している。 それはどういうことなのか…。 「もしかして、咲良さんが昭和の戦前のあたりから来たと思ってませんか?」 「…違うのかい?」 「ほんの少しのタイムラグはありますが、咲良さんは現代の実年齢の子ですよ」 「え…?」 「私達が暮らしていた宮は、山2つ向こうの隠し宮。 咲良さんが間違えて迷子にならないように結界で分離してたので、守弥さんにとっては別次元という捉え方になったようですね」 「……じゃ、なんで…」 「頼るべきものがなく、最新の文明利器を知らない状態であれば、自ずと守弥さんがあれこれ面倒を見るでしょう? しかも、鬼がもっとも好む目鼻立ちですからねぇ。 程無く絆されてくれると思ったものですから」 「………」 「結果オーライですから、本人には内緒ですよ」 よくよく考えてみれば、咲良はカメラを向けられることに違和感を持っていなかった。 ばあ様がタブレットやパソコンを使っていても、それはなんなのかと聞いたりもしていなかった。 大人しか操作してはいけないものと認識していたなら、疑問を投げ掛けることもない。 なるほど。 最初から守弥が絆されて竜絡されるように仕組まれていたわけだ…。 宮司の周到さに、あんぐりするしかない。

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