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囲炉裏の火に当たって少し温まっていても、芯は冷えているのだろう。
指先がかじかみ、唇もまだ色が薄い。
「まだ体が冷え切ってるから、動くのも辛いはずだ。
何か軽く摂らせて落ち着けてやること。
その後に風呂に入れてやれ。
………今日は温泉には入れない方がいいかもな」
「あ、ああ」
荊櫻が出す指示を聞きながら、守弥は咲良を上着でくるむ。
「魂魄が弾き出されてた期間はそう長いものじゃないが、体とのズレを戻すには暫くかかる。
ま、元々の霊力が高いから、そうそう難儀はしない筈だ。
あちこち徘徊するような事はないだろうが、ぶり返しや感情の振れはある。
体調が戻るまでは傍から離れないようにな」
「ああ」
荊櫻も上着にくるまれている咲良に視線を移す。
「お前は周りに気を遣い過ぎるからな。
こんな時くらいは対に甘えておけ」
「………でも…」
「式までに甘えかたの度合いを覚えとかないと、本当に伴侶になった後に困ったことになるぞ」
「え………?」
「自分の愛情が足りないと鬼が勘違いして、とんでもなく甘やかしにかかる。
鬼の甘やかしは凄いぞ」
「そんなに…?」
「とんでもなく溺愛しまくる。
二人っきりの時はともかく、人目を憚らずベタベタに甘やかすしな」
そうなのかと、見上げた先の守弥は目が泳いでいる。
「一生懸命自制するだろうが、子供が望めない分、対に対する甘やかしは半端ない。
ましてや…」
「ましてや…?」
「自分の身代わりに石になるわ、呪いの大部分を身の内に閉じ込めて生きてきたって分かったら、辛いことを背負って生きて来た分を甘やかしまくるに決まってるだろ。
……ほぅら…、図星だな、鬼」
ニヤニヤと荊櫻が笑うと、みるみる守弥の耳や顔が赤くなっていく。
「ま、さか…そ…な…、守弥さまは…」
「あー…、その…」
咳払いをして誤魔化そうとするが、荊櫻は容赦ない。
「お前が遠慮しようがしまいが、こいつの溺愛は止まらないと思うぞ。
だからな、ある程度お前から甘えるようにして対の気持ちをセーブしてやらないと」
「………そ、そ…な…」
手綱を引いて調整するのはお前だと言われて、咲良は血の気が下がっていく気がする。
「うちの長男と次男が番持ちでな。
ひっつくまでに紆余曲折あったから、番の溺愛っぷりが半端ないんだ。
どんなふうにセーブすればいいかを聞ける手配をしとく。
鬼、お前も番達から色々聞けよ」
「う、はい」
ニヤニヤする荊櫻と、顔色を変えた守弥。
無意識の竜絡と極度の甘やかし。
試練を乗り越えたことでどうなるかは、咲良次第ということになりそうだ…。
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