301 / 668
・
「………………ッ」
漸く時計の音が止まり、咲良は大きく息を吐いた。
「もっ、申し訳ございませぬっ!」
「……ん?」
「いつも、音が鳴る前に止めていらっしゃったのに……」
「………………」
「止め損なった上に、もっと煩くしてしまいました……」
悄々と項垂れる咲良の頭を、守弥がそっと撫でる。
「これな……。
実は壊れてるんだ」
「……………………はい……?」
守弥の言葉に、咲良は一瞬固まった。
壊れてる?
何が壊れて……?
「いつも鳴り出す前に止めてるのはな、鳴ったら止まらなくなるからだ」
「………は、………はい?」
「スイッチを押しても音が大きくなるだけでな、こうなったら電池を抜くしかないんだ」
守弥が悪戯っぽい笑みを浮かべると、一気に体の力が抜けてしまった。
「………………っ、こっ、壊れているなど、聞いておりませぬぅ……っ」
「いや、ホントにすまん。
いつもは鳴るに止めてるから油断してた。
一生懸命止めようとしてるのを見てたら、何だかもう少し見ていたくなってな……」
「………………っ、いっ、いつからご覧になってたのでございますか……っ」
「………………髪の毛をほどきにかかるあたりからかな」
守弥の一言に息を飲んだ咲良は、顔を真っ赤に染めて頬を膨らませた。
「…………………………ッ!
ひっ、酷うございます!ずっとご覧になってたのでございますか!
守弥さまは意地悪でございますっ」
「アワアワしながら一生懸命ほどいてるのが、何だか可愛く見えてな。
すまん」
「~~~~~っ!
意地悪が過ぎまする!もうっ!もうっ!」
「すまんっ、もうしないから許してくれ」
「知りませぬ!守弥さまの意地悪!……っ、…………ッ…………!?」
視界がいきなり反転する。
半泣きで言い募っていた咲良は、守弥に組み敷かれてしまっていた。
ともだちにシェアしよう!