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「耳を軽く噛むくらいなら構わないが、鬱血するような印はつけるなよ」と言い置き、荊櫻が帰っていった。
咲良とまだまだ一緒にいたがる弟妹達をまとめて車に乗せ、時雨も帰り支度をする。
「気になることはあるかもだけど、昔は昔、今はいま。
遠い昔のことは気にしないんだよ。
今の俺は凄く幸せだなんだし」
「………」
「兄さんのこと、よろしくね」
「はい…っ」
「じゃあね。
あ、見送りはいいからさ、ゆっくり休んで。
咲良もだけど、兄さんも疲れてるでしょ」
「………わたくしは、それほど…」
「疲れてない訳ないよ。
体から弾き飛ばされてたんだからね。
兄さんも。
時間を遡るのは、結構疲れるもんだと思うよ。
それにさ…明日になったらうちの親も駆けつけるだろうし、ゆっくりって訳にはいかないかもだし」
「……はい…」
「じゃあね、おやすみ。また明日ね」
「お、おやすみなさいませ…」
にっこり笑い、時雨が帰っていく。
車から降りて来ていた弟妹を肩に担ぎ上げるのが見える。
見送りはいいと言われたが、テールランプが見えなくなるまで二人はそこに立っていた。
「じゃ、休むか」
「はい」
守弥に手を引かれて歩き出す。
その様子を陰から見守る付喪神や式神たち。
「尊い…尊すぎる…」
「ラブラブじゃ…」
「かんわいいのぅ…」
「うぶい仕草がまた…」
「尊いのぅ…」
「今日はみんなでおとなしくしとるかの…」
「んだんだ」
「ラブラブのお邪魔はやめとくべぇの…」
いつもは部屋までついていくのだが、さすがに今日は遠慮しようと堪えているらしい。
二人が角を曲がるのを見届け、そうっと陰形していった。
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