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部屋に戻ると、咲良が不思議そうにしている。
「なんだか、とても静かではありませぬか…?」
「ん?ああ…」
いつもなら足元に猫又がじゃれていたり、屏風のぞきや雲外鏡が座布団で寛いでいるのに、今日は姿が見えない。
「気を利かせてるんだろ」
「………?」
「お前が帰還してきたから、二人っきりにしてやろう的な」
「………わたくしが還って来たから、気を…?」
「…………気を利かせてくれてる」
「……?」
小首を傾げる咲良には、まだ理解できない。
守弥がどれだけ咲良を独占したいか。
どれだけ触れたくて、ぎゅうぎゅう抱き締めたいかを。
周りにきょうだいや付喪神達がいようが構わない。
いっそ、咲良に対してどれだけ焦がれていたかを見せつけても構わない位には。
荊櫻は咲良に分かりやすくしようと「甘やかし」と説明したが、実際の守弥の思いの丈をどう伝えたものか…。
「………おばあ様も、式神の皆さまも、付喪神の皆さまも…?」
「ああ」
「皆さまが、気配を消されたのですか…?」
「怖いか?」
「………少し、ですが…」
「………」
「でも、どなたもいらっしゃらないということは、わたくし…。
わたくし…」
「ん………?」
耳まで染めた咲良が守弥を見上げる。
潤んだ瞳と、キュッと結んだ唇で。
「その…、わたくし…」
「………っ」
「守弥さまを独り占めして良いのですね…?」
「……………お、おう…」
些か応えるのに時間が掛かったのは、心臓がバクバクと跳ねたからだ。
『お、おい、反則だろ…!
そのウルウルの目は!』
跳ねた鼓動は、そのまま続く。
全身の血脈が逆流したかのように。
「嬉しいです…!
嬉しゅうございます…、守弥さま…っ!」
遠慮がちにポフンと抱きつかれ、更に心臓が跳ねた。
「………独り占め…。
嬉しゅうございまする…っ」
「……っ、…」
咲良が自発的に抱きついてくるのは珍しい。
石になる前は、守弥に断りを入れてから控えめにくっついていたくらいで…。
ある意味不意打ちを食らった形で守弥がよろけた。
「ふえ?」
視界が急にかわる。
ぽすん!
「……へ?」
気付いたときには、寝台の上に守弥を押し倒した形になっていた。
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