305 / 668
・
数時間後……。
フラつく足取りの咲良は、朝食後にベッドへと戻されていた。
目眩を起こしてはいないが、地に足がつかないと言うか体の芯がフワフワするのだ。
「う~ん、微熱というより本格的に熱が上がってきてるねぇ……。
8度台だし、今日は一日ゆっくり寝てた方がいいよ」
「……そんなぁ………。…お手伝いしとうございます……」
「大丈夫。
今日はもともと御朱印帳の担当だったし、それは誰がが代わりに出来る仕事だよ、さくら」
「…………でも……」
「無理をして動いて体力を消耗する方が良くないよ。
そうだろ、ばあ様」
「そうだねぇ。時雨の言うことが正しいよ」
「でも……、お祭りの時だけの御印を押しとうございます……」
夏の大祭の日だけの特別な印は、鬼の面と桜をあしらったものだ。
守弥と時雨の手習いを手伝いしながら、一生懸命練習をしていた。
綺麗に印を押す練習を……。
「特別な御印……。
楽しみにしておりましたのに……」
じわじわ涙が滲む。
ばつが悪いのか、守弥も口を挟んで来ない。
「もうすぐ鬼夜叉が来るからさ。
熱が下がれば、なにかしらの許可が出るよ」
「はい……」
なんとなく、熱が上がった要因に気づいてはいるのだ。
明け方、守弥に噛まれたところが甘く痺れて疼いたままなこと……。
その場所からジワリジワリと広がる熱が、下腹をツクリとさせていることも……。
そして、守弥が甘噛みをする原因を作ってしまったのは咲良自身。
『うう……。
わたくしは、どうしてこうも迂闊なのでしょう……』
自己嫌悪に陥りながら、咲良は唇を噛んだ。
ともだちにシェアしよう!