307 / 668

コンコン。 軽くノックをしたが、応えはなく。 守弥は静かに部屋に入った。 「咲良、喉が渇いてないか?」 「………………」 熱でしんどいのだろう。 潤んだ瞳がゆっくり動いて守弥を見た。 「水分をとろう。脱水してしまうぞ」 「………………はう……」 起き上がるのを手伝い、寄りかからせる。 小さめのペットボトルを持たせたが、手に力が入らずに取り落とした。 「怠くて無理か……」 「んぅ……、…………ん」 取り落としたボトルを手に取っても、封を切るどころか持ち上げるのも辛そうな状態だ。 レモンの輪切りを入れた水差しから小さい氷を取り出す。 「咲良、氷を含んでみるか?」 「こ……り…………?」 「レモンの香りがする。小さいのならいけるか?」 「………………んぅ……」 気だるげに頷く咲良の口に小さい氷を当てると、迎え入れるように唇が開いた。 「噛み砕くんじゃなくて、舌の上で転がして融かすんだ」 「んん……」 心地よい冷たさに、咲良の表情が和らぐ。 「も、……いっこ……」 「ん」 小さいのをもうひとつ口元に運ぶ。 焦点を結ばない目が細められた。 「こっちなら飲めるか?」 「…………んぅ、……」 経口補水液のパウチを口元に持っていってみる。 「ん……」 噎せないように、少しずつ口に入れる。 ゆっくりだが、喉を落ちていっているようだ。 「ちゃんと飲めたな、偉いぞ」 「…………んに……」 飲みきったところで限界になったらしい。 守弥に寄りかかって寝入ってしまった。 冷却シートを貼りかえ、一旦部屋から出る。 お粥を冷まして持ってくると式神に伝え、守弥は厨房へ向かった。

ともだちにシェアしよう!