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◆◇◆◇◆ 林の向こうから、祭りの賑やかな声や出店からの香りを運んできた。 暫し眠っていたらしい。 途中で守弥が様子を見に来たのは何となくわかるのだが、倦怠感に負けて寝入ってしまっていたようだ。 喉の乾きを覚えても、レモンと氷が入った水差しに手を伸ばす気になれない。 咲良はぼんやり霞む天井を見た。 「あつい……」 襟元を緩めて大きく息をつく。 その息ひとつすらも、とても熱く感じてしまう。 ジワリ。 …………噛まれたところが熱い。 ツクリ……。 下腹がじわりじわりと甘く痺れて。 『わたくしは、どうなってしまうのでしょう……』 咲耶と代わって自分が身を引けば、守弥が幸せになるだろうと思った。 気づかれる前に姿を消そうとしたが、逆に守弥を怒らせて求愛の印を刻まれた。 『何をしているのでしょう……』 好転させようとした筈が、物事を悪化させているだけのような気がして。 『わたくしは……、どうすれば……っ』 アザラシのヌイグルミをギュウギュウしても、良い考えは浮かんでこない。 ばあ様に相談しようにも、逃げ出そうとしたことを言うことは憚られる。 大きく息をつき、咲良は目を閉じた。

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