308 / 668
・
◆◇◆◇◆
林の向こうから、祭りの賑やかな声や出店からの香りを運んできた。
暫し眠っていたらしい。
途中で守弥が様子を見に来たのは何となくわかるのだが、倦怠感に負けて寝入ってしまっていたようだ。
喉の乾きを覚えても、レモンと氷が入った水差しに手を伸ばす気になれない。
咲良はぼんやり霞む天井を見た。
「あつい……」
襟元を緩めて大きく息をつく。
その息ひとつすらも、とても熱く感じてしまう。
ジワリ。
…………噛まれたところが熱い。
ツクリ……。
下腹がじわりじわりと甘く痺れて。
『わたくしは、どうなってしまうのでしょう……』
咲耶と代わって自分が身を引けば、守弥が幸せになるだろうと思った。
気づかれる前に姿を消そうとしたが、逆に守弥を怒らせて求愛の印を刻まれた。
『何をしているのでしょう……』
好転させようとした筈が、物事を悪化させているだけのような気がして。
『わたくしは……、どうすれば……っ』
アザラシのヌイグルミをギュウギュウしても、良い考えは浮かんでこない。
ばあ様に相談しようにも、逃げ出そうとしたことを言うことは憚られる。
大きく息をつき、咲良は目を閉じた。
ともだちにシェアしよう!