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コンコン。 控えめなノックがされた。 「起きてるか……?」 「………?」 細身の女性が、静かに室内に入ってきた。 「具合はどうだ?ん?」 「…………っ、荊櫻(りお)さま……っ」 視界がジワッと滲む。 「熱が下がらないようだが……、水分は摂れてるか?」 「熱くて少し怠いのですが、何かを口にしようと思えなくて……」 「そうか……。 先ずは診察からだな」 「……はい…………」 検温、咽の腫れがないかどうかをチェックしたあと、聴診器を当てる為に前を開けたところで、荊櫻の表情が変わった。 「………………?お前、何か変わった物でも食ったか?」 「……?いえ、なにも……」 「麻疹や風疹は? 罹患したことはあるか?」 「いえ………………、……?」 「身代わりでもやったか?」 「………………?まさか……、先月に咎め立てされてからは一度も……」 「…………ちょっと見てみろ」 「え………………?」 ローテーブルに伏せられた鏡を荊櫻が手渡す。 「右側の首筋のあたりだ。 何か心当たりはないか?」 「……………………? …………っ、……こ、これは………………っ!?」 守弥に噛まれた辺りに、ほんのり淡い色彩がある。 歯形とは違うもの……。 淡い淡い色の蔓と花のような模様が、そこにはあった。

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