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「え……っ、こ、これは…………」 「事を致したアレとは少し違うが……。 お前、心当たりはあるか?」 「………………っ」 蒸気が噴き出してしまったくらいに顔が熱い。 「あ、あ、う……、それは……っ、その……っ」 「あるんだな?」 「でも……」 「言え」 「う………………」 重低音を伴う圧が凄い。 だが、言えば守弥に危害が及びそうな気がする。 「言え。つか、吐け」 「えうう……」 「今なら怒らないから、吐け」 「……………………………………………………あの、噛まれました」 「噛まれた?犬にか? 早く言わないと駄目だろ」 「いえ、犬ではございませぬ」 「なら、何に噛まれた?ほら、早く言わんか」 「うう……」 「大体、何故傍にいる人間が止めないんだ? 首筋に噛みつくなんて、どこの犬だ。 本気で噛まれたら命に関わるんだぞ? 誰だ、けしかけたのは!?」 「…………誰も……、いえ、けしかけたようなのは、わたくしで……」 「どういうことだ、吐け!」 どう言い繕っても、マシンガンのような追求は止まない。 「悪いのはわたくしでございますっ。 守弥さまが寝ている間に姿を消してしまおうとしたら、それが露見してしまって……っ」 「は……?」 「姿を消そうと思っただけなのです。 今ならまだ間に合うと……」 「熱があるのに彷徨く奴がいるか。 …………で?」 「怒った守弥さまが……」 「………………」 守弥と言った瞬間、荊櫻の背後に陽炎が揺らめく。 「何をした、言え!」 「…………ここを噛んで……」 「まさか舐めなかったろうな?」 「…………っ」 「舐めたんだな?」 「………………はい……」 ブワリと黒い陽炎が噴き上がった。

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