311 / 668

「その様子では聞くまでもないが、同意はしたのかお前」 「…………?いえ……」 「同意なし、と。 噛み返しはしたか?」 「いえ……。 …………?噛み返しをするのが決まりなのですか?」 「ああ。 そうか……説明も無しで一方的に噛んで傍を離れた、と。 ふむ……」 「あ、あの……、荊櫻さま……?」 どんどん荊櫻の表情が険しくなる。 「あっ、あの……っ、わたくしが悪いのですっ。 守弥さまのお心を占めたままで世を去ることが怖くて……、今ならまだ間に合うからと……」 「…………明日の事なんか誰にも分かる訳がない。 命数を削ったお前よりも、あいつの方が早いかも知れないだろう?」 「守弥さまにも同じことを言われました。 変に先回りをして怒らせてしまって……」 「逃げられる前に同意無しでマーキングか……そうか……。 やるな、あのガキ……」 剣呑さを増した表情に、咲良は血の気が引く。 「あっ、あの、わたくしが悪いのですっ。 どうか、お気を静めてくださいまし……っ」 「察しが良いのか鈍いのか、どっちなんだお前。 つか、その手を離せ」 「離しませぬ! お願いにございます!お気を静めてくださいまし! お腹のやや様に障りまする……っ」 「うちの子らはそんなにヤワじゃない。 離せ。チョコっと撫でて来るだけだ」 「お願いにございまする……」 「大丈夫だ。ほんのちょっとだからな」 ふ……っ。 「ふあ……っ」 細い首筋に軽く落とされた手刀。 くずおれた咲良を寝台に横たえ直し、荊櫻は薄い胸に手を当てた。

ともだちにシェアしよう!