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式神に呼ばれて駆けてきた守弥は、室内にいる荊櫻の形相を見て息を飲んだ。
「………………」
背中から黒い瘴気が立ちのぼり、視線が合っただけで心臓が射抜かれそうで。
『殺されそうだな……』
その場で固まるしかない。
「も、守弥、さくらを噛んだのはまちがいないかい?」
「あ、ああ……」
「噛み返しはさせたかい?」
「いや、あとで落ち着いてからと……、ぐは!」
状況が読めないままで答えた瞬間、腹部に衝撃が来た。
鳩尾にパンチというレベルではない。
巨漢の力士が繰り出した張り手や、ボクシングの世界チャンプが繰り出した拳のように速くて重いものだった。
細身の妊婦が繰り出すとは、到底思えない程の。
「このドたわけが……っ」
その細身の妊婦はくずおれた守弥を片手で担ぎ上げて部屋を横切ると、ベッドの上に放り投げた。
「甘噛みするなら終いまでやれ。馬鹿者」
「………………?」
鬼の甘噛みは伴侶に対するマーキングだと認識していた。
返しの甘噛みのタイミングは、噛まれた相手の任意だと。
「………………?返しは任意じゃないのか……?」
「それは鏡の甘噛みだ。鬼の甘噛みは違う」
「………………?」
「鏡も鬼も、甘噛みで魂魄にまで印をつけるところまでは同じだ。
違うのは、噛んだら直ぐに噛み返して貰わないと。
特に、界渡りの姫はな」
「…………噛み返さないとどうなるんだ……?」
「単刀直入に言えば死ぬ」
「な………………っ!」
荊櫻の言葉に、守弥の血の気が引いた。
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