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「ね、見た?」 「見た見た見た!シロップ拭ってペロってしたよ!」 「守弥にーちゃん、嬉しそう!」 「なんかさ、エロいよね」 きゃわきゃわ喜ぶ弟妹たち。 腹に抱えた鏡に映し出される甘い様子に、雲外鏡はどうしたものかと狼狽えている。 「兄さんは体調が良くないから食べさせたんだろうけど、どう見ても弟や妹扱いとは違うよね……」 「大ばば。アイツがあんなふうに相好を崩すことがあったか?」 「ないねぇ……。 チビっ子達をあやした時も、あんなふうにはならなかった。 ばばも初めて見たよ」 「それだけあからさまに違うのに気づかないって、有り得ないよねぇ……」 大人たちは首をひねる。 「態度だけじゃ分からないのかねぇ……。 守弥も何かしか言ってるだろうに」 「………………兄さん、結構大雑把だからなぁ……。 言わなくても通じてるだろとか思ってるのかもよ?」 「今まで誰とも付き合って来なかった訳じゃあるまいし、少しは……加減が分かるだろうさ」 「「…………………………」」 はて、と大人たちは思う。 加減が分かっているなら、然り気無く言葉にするのではないか? 咲良の捉え方が微妙に違うと気づいているだろうし、もう少し伝え方を考えるのではないか、と。 「………………そういや、高校のときも大学のときも、一方的にコクられて振られてたなぁ……。 兄さんは振られてた理由がイマイチ分かってなかったような……」 「「……………………」」 本当に姫乞いを成就させる気があるのか? 疑問だけが頭の中をよぎる。 「あっ、あっ、うわっ!」 「でこっ、デコちゅ!」 「熱計ってんのかなぁ~」 「うしゃこ、真っ赤で可愛い~っ!」 大人たちの心配を他所に、鏡の中では何とも甘い雰囲気なのだった。

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