322 / 668

数時間後……。 熱もふらつきも引いた咲良は石庭にいた。 甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる守弥に申し訳なくて、少し涼みたいからと逃げて来たのだ。 高熱の原因を作ったのは自分自身。 守弥はなにも悪くない。 「わたくしが悪いのですもの……」 瑞々しい葉を繁らせたご神木を見上げると、夕暮れの風が髪をひとすじ揺らしていく。 「ご神木さま……」 一体自分はどうなってしまっているのだろう。 なんてことない、体の成長が追いついてきただけだと荊櫻は言うが、これから自分がどうなるのか想像がつかない。 「どなたもわたくしを気持ちが悪いと仰有らない……。 でも、……わたくしは、……どうなるのでしょう……。 どうなっていくのでしょう……」 しっかり鏡で見てはいないから、余計に怖い。 どんなふうに自分が変化を遂げたかを。 命をゴリゴリと削る熱は引いたが、身の内に息づく燠火は残っている。 下腹や体の芯をツクリと焼くような……。 それがあって当然のものなのか、それとも……あってはならない穢れなのかすら、咲良には分からない。 怖いのだ。とても。 しゃ……りぃ…………ん。 「………………っ」 微かに鈴の音がしたような気がして振り返る。 滔々と清らかな水を湛えた泉。 そこに、狩衣を纏った影があった。 「………………?」 暮れゆく空に浮かぶ満月が照らし出す。 闇を溶かした艶やかな黒髪。 整った鼻梁。 厳しさの中に、慈愛を滲ませた表情。 そして、一対の角。 「………………あなたさまは……?」 「ん?」 「此の世の方でございますか?」 「此の世にあるようで、常世にもあるな」 「………………」 「悩んでいるのだろう?小さき子よ」 「はい………………」 示すまま泉を囲む岩に腰掛け、咲良は鬼を見上げた。

ともだちにシェアしよう!