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数時間後……。
熱もふらつきも引いた咲良は石庭にいた。
甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる守弥に申し訳なくて、少し涼みたいからと逃げて来たのだ。
高熱の原因を作ったのは自分自身。
守弥はなにも悪くない。
「わたくしが悪いのですもの……」
瑞々しい葉を繁らせたご神木を見上げると、夕暮れの風が髪をひとすじ揺らしていく。
「ご神木さま……」
一体自分はどうなってしまっているのだろう。
なんてことない、体の成長が追いついてきただけだと荊櫻は言うが、これから自分がどうなるのか想像がつかない。
「どなたもわたくしを気持ちが悪いと仰有らない……。
でも、……わたくしは、……どうなるのでしょう……。
どうなっていくのでしょう……」
しっかり鏡で見てはいないから、余計に怖い。
どんなふうに自分が変化を遂げたかを。
命をゴリゴリと削る熱は引いたが、身の内に息づく燠火は残っている。
下腹や体の芯をツクリと焼くような……。
それがあって当然のものなのか、それとも……あってはならない穢れなのかすら、咲良には分からない。
怖いのだ。とても。
しゃ……りぃ…………ん。
「………………っ」
微かに鈴の音がしたような気がして振り返る。
滔々と清らかな水を湛えた泉。
そこに、狩衣を纏った影があった。
「………………?」
暮れゆく空に浮かぶ満月が照らし出す。
闇を溶かした艶やかな黒髪。
整った鼻梁。
厳しさの中に、慈愛を滲ませた表情。
そして、一対の角。
「………………あなたさまは……?」
「ん?」
「此の世の方でございますか?」
「此の世にあるようで、常世にもあるな」
「………………」
「悩んでいるのだろう?小さき子よ」
「はい………………」
示すまま泉を囲む岩に腰掛け、咲良は鬼を見上げた。
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