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不思議なくらいに、問いかけに素直に言葉が出てくる。 「お前は悩みすぎる。 もっと流れに乗ればよいのだ」 「でも、……わたくしは」 「男だから、あの者の想いを受けとる資格がないと思うのか」 「はい」 「お前が育った世界と違って、此方は夫婦のあり方に多様性がある。 誰からも謗(そし)りを受けることはない。 お前も、あの男もだ」 「………………っ、まことに?まことにございますか……っ? 男子なのにくねくねして気持ちの悪い、不細工で呪わしい見た目の嫁を取るなんて。 しかも命の期限が近い嫁なんてとんでもないと、守弥さまが咎め立てられはいたしませぬか?」 「ないな、それは」 「なぜ、そのように……?」 きっぱり言い切る鬼に、咲良は問いかける。 「お前はお前自身を知らなすぎる。 人に尽くす心持ちも、優しい気性も、何もかもが周りを穏やかにする。 そして、その料理の腕前。 胃袋をがっつり掴まれて、だれがお前やあの男を悪く言うものか」 「でも……っ」 「それだけあの男が心配か」 「………………っ、……はい……」 何故、この鬼はこうして言い切るのだろう。 そして、何者なのだろう……。 強いて言うならば、守弥と時雨……あちらの世界の宮司の雰囲気にも似ているような気がする……。 「わたくしは、怖いのです」 「……ふむ、怖いか」 「はい。わたくしが恋慕うことで守弥さまになにか差し障りが出てしまわないかと」 「……差し障りとは……?」 「守弥さまが恥ずかしい思いをされたり、謗りを受けたり、お困りになってしまうことにならないのかと」 「そうか……。 でも、好きなのだろう?」 「…………はい」 「どのくらい好きだ? 困らせたくないと思うのとは別に、好きだと感じることもあるだろう?」 「…………好き、でございます。 守弥さまを思うだけで、体中の血脈が沸き立って逆巻いてしまうような感覚になりまする。 心の臓がギュウッとなって、足元がフワフワして…………っ、わたくしのすべてがおかしくなりまする」 「………………そりゃ重症だな。 ふむふむ。 で、その、守弥はお前をどう想ってくれてるのだろうな」 「どう、と……」 急に黙った咲良に、鬼は首を傾げた。

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