325 / 668

「お前は物心つく前に宮に封じられたのだったな」 「はい」 「同じ年頃の者といえば、姉くらいのものか。 此方に来てから、漸く様々な年代の者との関わりを持ったのであろ?」 「は、はいっ」 「お前と同じくらいの男子というものはな、もっと生々しくて肌もニキビがあったりするし、汗臭いしむさ苦しいのだ。 女子とて、人間関係の軋轢で肌も荒れる」 「………………」 「顔の造作の基準も、少し下げないとな」 「基準……で、ございますか?」 「ああ。 お前、自分の可愛らしさが分かってないだろ」 「ふええ?」 「お前の理想は切れ長の目と涼やかな顔立ちだろうが、その姿に凛々しい目鼻立ちはちょっと、な……。 鬼の血筋は、可愛らしい顔立ちを好むんだ」 「………………はい?」 「神代の頃からの倣いでな。 鬼はクリクリした目と通った鼻、花びらや果実のような唇の者を選ぶ」 「………………?」 キョトンとする咲良に、鬼はニヤリと笑う。 「此方に来た時に、守弥だけでなく親兄弟も生唾を飲んだだろう? お前は鬼の血が最も好む顔立ちだ。 いや、顔立ちだけじゃない。 穏やかな気性、健気さ、小動物っけ……。 華奢な体つきに細い腰。 何から何まで鬼の好みだぞ。 良かったなぁ、お前」 「ほええ……っ!?」 驚く咲良の髪をひとすじ、鬼は己の指に絡める。 「言葉だけが意思を伝えるものではないぞ。 自分を卑下するな。 対の態度から想いを汲み取るのも姫の役目だ」 「………………」 「いっそお前から気持ちを伝えるのも有りだが」 「ふええ……っ、無理無理無理っ、無理でございますぅ……っ」 「だろうな……」 がっくりと肩を落としながらも、鬼は何か良い手はないかと一緒に思案してくれた。

ともだちにシェアしよう!