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「………………?」 「もっ、申し訳ありませぬ……っ」 咄嗟に阻んだ自分の手を、咲良は膝に戻した。 「……………兄さんの手、ずらしちゃうよ~?」 今度は時雨が手を伸ばす。 てし。 やはり咲良が阻む。 「…………あっ、あわ……っ」 本人も無意識のことなのか、驚いて手を引っ込める。 「どれ、父さんならどうだ?」 てし。 「ばばならどうかねぇ」 てし。 次々伸ばされる手を、てしてしと掴んでは阻む。 一人ずつなら阻めるだろうし、複数ならどうかとタイミングをはかりながら家族は次々手を伸ばす。 てし。 てしてし。 てしてしてし。 てしてしてしてしてしてし。 てしてし。ててし、てしてし。 てててし。てしてし、ててててて。 ビシビシと叩き落とすのではなく、一人一人の手を優しく掴まえて阻む。 守弥からは後ろ姿しか見えないが、自分がホールドしている手を外させないようにテシテシしている咲良の様子は正直戸惑うが、守弥に対して無意識に独占欲を発揮しているのだと思えば、ついつい頬が緩んでしまう。 『兎というより、好奇心旺盛な子猫が背中の毛を逆立ててる感じだな……』 初めて独占欲を発揮した様子は、またとないシャッターチャンスだとばかりに時雨とばあ様は激写しまくりだ。 あとでダビングしてもらおうと、守弥は密かに目論んでいる。 然り気無く目配せすると、時雨がパチンとウインクを返した。

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