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サッと汗を流してぬるめの湯につかる。
「暑いと思ったら、縁に腰掛けて足だけで浸かるんだぞ?」
「あっ、はい」
湯中りしないようにと昨日よりもぬるめにしてあり、そんな守弥の気遣いが嬉しく、申し訳無さもつのる。
「俺も簡単に流すくらいにしとくか……」
「いえ、お気遣いなく……っ、わたくしなら大丈夫でございまする……」
「そうか?」
「………………はっ、はい……っ」
「…………早目に済ませるから、逆上せそうな時は言うんだぞ」
「はい……っ」
わしわしと洗髪を始めた守弥と、のほほんと湯につかる咲良。
その様子を結界の外から見ていた鬼が頭をかきむしる。
『か~っ!なんだあの緊張感の無さは……っ!
亭主というより父親みたいになってるじゃないか!
こら、咲良!もう少し照れるか何かしないか……っ』
対の鬼と姫というより親子のようなほのぼのした状態では、進展も何もあったものではない。
『しかたない。
かくなる上は、ほんの少し後押ししてやろうではないか』
懐から花弁を取り出し、そうっと息を吹き掛ける。
『よしっ、いけ!』
フワリフワリと花弁は舞い降りて咲良の背中に貼り付き、静かに溶け込んでいった。
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