331 / 668

◆◇◆◇◆ サッと汗を流してぬるめの湯につかる。 「暑いと思ったら、縁に腰掛けて足だけで浸かるんだぞ?」 「あっ、はい」 湯中りしないようにと昨日よりもぬるめにしてあり、そんな守弥の気遣いが嬉しく、申し訳無さもつのる。 「俺も簡単に流すくらいにしとくか……」 「いえ、お気遣いなく……っ、わたくしなら大丈夫でございまする……」 「そうか?」 「………………はっ、はい……っ」 「…………早目に済ませるから、逆上せそうな時は言うんだぞ」 「はい……っ」 わしわしと洗髪を始めた守弥と、のほほんと湯につかる咲良。 その様子を結界の外から見ていた鬼が頭をかきむしる。 『か~っ!なんだあの緊張感の無さは……っ! 亭主というより父親みたいになってるじゃないか! こら、咲良!もう少し照れるか何かしないか……っ』 対の鬼と姫というより親子のようなほのぼのした状態では、進展も何もあったものではない。 『しかたない。 かくなる上は、ほんの少し後押ししてやろうではないか』 懐から花弁を取り出し、そうっと息を吹き掛ける。 『よしっ、いけ!』 フワリフワリと花弁は舞い降りて咲良の背中に貼り付き、静かに溶け込んでいった。

ともだちにシェアしよう!