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…………どくんッ!
「………………?」
一瞬の事だが、血脈の跳ねを咲良は感じた。
『…………いま……のは…………?』
昼中にあった甘い疼きが、体を一瞬駆け抜けたような気がしたのだ。
とく……とくん。
とっ、とくとく……っ。
『これは……?』
逸る鼓動とともに、甘い疼きは強くなる。
逆上せたものとは違う変調だと思い、守弥に声をかけようとしたのだが……。
「………………っ」
泡が流れ落ちていく闇色の髪と首筋から肩のライン。
腕の筋肉と肘を伝う水滴が床に滴る音。
微かに響く守弥の息遣い……。
今まではなんとも思わなかったものが、何故か艶かしく感じる。
『…………なぜ……』
浸かっている湯はぬるく、湯中りする程のものではないのに血脈が逆流していく感覚。
体の芯を甘く焼く疼きが、ゆるりと下腹をも疼かせる。
『………………へ……?
なに……?これは何なのでしょう……っ』
ドクドクと耳元で鼓動がする。
湯の中にある咲良の中心が形を変えている。
『こんな……っ、こんなのを見られたら、守弥さまに嫌われてしまいまする……っ』
髪を洗い流している今が好機だ。
というより、今しかない。
「守弥さま、わたくし先に上がって涼んでおりまする……っ」
「お?おう」
咲良は守弥が背を向けている間に湯船から出て素早く体を拭き、浴衣に着替えて走り出した。
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