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『我ながら、策士だな……』 咲良は守弥を困らせることを怖がっている。 それを重々承知した上での「拒否されたら物凄く落ち込む」発言なのだ。 恥ずかしいのは嫌だと思うのは仕方ない。 だが、対の鬼を困らせたり落ち込ませるとなれば話は別になる。 「あ、あう……」 口をパクパクさせて戸惑う咲良の中では、思いがぐるぐる回っているに違いない。 恥ずかしさと守弥を困らせたくない思い……。 どちらを優先するか、その重さを考えれば答えは自ずと限られる。 「わたくしが……わたくしが拒めば、守弥さまはお困りになりまするか……?」 「ああ」 「悲しくなりまするか……?」 「物凄く悲しくなる。助けてくれ」 肩を落とす仕草をすると、綺麗なカーブを描く眉が八の字になっていく。 「………………落ち込んで……しまうのですか……?」 「落ち込む。 千尋の谷に落とされるくらいに落ち込んで、暫くは復活出来ないかもしれない」 「………………………………………………………………………………………………………………………………うぅ……。 守弥さまが悲しくなるのは……嫌です……」 「…………」 「わたくしが……恥ずかしいのを我慢すれば良いのですね……?」 「あ、ああ……」 「我慢…………いたしまする……」 予想通りに、咲良は折れた。 「怖かったり恥ずかしいなら俺にしがみついておけ。 そうすれば平気だろう?」 「はい……」 言われた通りにキュウッとしがみつく。 罪悪感が無いわけではないが、いまは咲良の素直さに甘えてしまう方が得策だと己に言い聞かせ、浴衣の裾へ手を伸ばした。

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