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ドクドクと心臓が逸る。 とうとう言ってしまった。 咲耶の大事な人に。 きっと、こんなクネクネした自分は気持ち悪いと思われてるに違いない。 「よくじょうしている」と言われたが、どういう意味なのか良くわからない。 どうしたらいい? どうしたらいいのだろう。 額にひとつ、しっとりと口づけが落とされる。 「咲良」 「んうう……っ」 「咲良、聞いてくれ。 お前のここにある好きと、俺の中にある好きは、多分同じものだ」 「ふえ……?」 「身も……心も魂魄に至るまで、全部でお前を想ってる」 「で、でも、守弥さまは……っ、守弥さまは咲耶の対の鬼さまです。 わたくしと……恋仲になってしまっては、後々齟齬が生じませぬか……?」 「顔も見たことがない咲耶と? それはもう俺の選択肢に無いんだが」 そう。 選択肢には無い。 「何故でございますか……? 対の姫は咲耶ですのに、なぜ……。 わたくしは全てを引き受けて死ぬ忌み子に過ぎませぬのに……」 「お前の家の事情は把握してる。 でも、俺にとっての対はお前しかいない。 男子だろうが、身代わりだろうが、それはお前を否定する理由にはならない。 胃袋までがっつり掴まれてるのに、今更咲耶を選ぶとか有り得ないだろ」 「…………でも……」 「前にも言った筈だ。 彼方と道が繋がったとしても俺の対はお前だし、咲耶と対になるつもりもない。 諦めろ」 「…………わたくし……きっと、バチがあたりまする」 「当たらない。 此方の世界では同性の結婚が許されているし、両親もきょうだいもお前を認めてる。 障害になるものは何一つない」 こつん。 「ひゃ……っ」 額と額が触れ、お互いの息が触れるくらいに近い。

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