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心臓は胸骨の内側に存在していた筈だ。
なのに、不思議なくらい耳の所で鼓動が鳴っている気がする。
どっくん、どっくん、どくっ!
いや、もっと早い。
ドコドコドコドコドコ……!
太鼓の早打ちくらいに早い。
「わたくし……」
「……ん?」
「わたくしで本当に良いのですか?
守弥さまには、もっともっと似合いのお方が……」
「妥協するわけじゃない。
お前でなければ意味が無いんだ」
「………………っ!」
一生懸命言い聞かせる守弥の顔と、迎えに来たときの姿が重なる。
『あのときから、守弥さまは気遣いと優しさをわたくしに向けてくださっていた……』
「ご尊父、ご母堂、この場に立ち会いし皆に礼を申し上げる。掌中の珠の如く慈しんだであろう子を、我の対として貰いうけた。大事に慈しむ事を、固く誓おう」と、宣言してくれた守弥。
『あの時には、もう……』
すとん、と腑に落ちる。
桜吹雪の中、迎えに来てくれた守弥を見たあの瞬間に、何一つ知らない自分は恋に落ちていたのだと。
『ごめんなさい、咲耶……。
わたくしは……この方を……愛しくてならないのです……』
守弥のものになる歓喜と、咲耶の縁談を完全に潰してしまった申し訳なさに、涙がひとつ零れる。
チュ。
「はうぅ……」
その涙を吸い取りながら、守弥は咲良を寝台に横たえる。
華奢な体に覆い被さり、薄く痕の残る首筋に唇を当てた。
「あ……っ」
「お前は、俺だけの対になる」
はくり。
「………………んあ……っ」
そろり。
「ひああ…………ッ」
想いを籠めて施される甘噛みに、薄い背中が浮いた。
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