361 / 668

◆◇◆◇◆ 翌朝。 何となく呼ばれたような気がして、咲良は石庭に来た。 穏やかな笑みを浮かべ、鬼が頷く。 「………………ふむふむ。 ちゃんと味見をしてもらえたようだな」 「味見……?」 「らぶらぶちゅっちゅ出来たんだろう? 色香が駄々漏れしてる」 「ふあ?!」 何となく意味が分かって、顔がボフッと熱くなる。 「姫はな、慈しまれてなんぼだ」 「……………」 「鬼もな、姫からの情を受けてやっと一人前だしな」 「………………ご祭神さま」 「ん?」 「わたくし、頂いた匂袋を無くしてしまいました。 もしかして、それで守弥さまがおかしくなったのでございますか?」 「ん? あれは俺が回収しといた。 他の奴が発情したらまずいしな。 ああ。亭主がおかしくなったのは、お前がエロくて堪えきれなくなった証だ。安心しろ」 「……え…………っ」 「漸く本来の姫と鬼の状態になったんだ。 あとは、お互いに想いあって関係を構築していけばいい」 「………………はい……」 俯く咲良の頭をそっと撫でる。 「睦まじくあることは罪ではない。 寧ろ喜ばしいことだ」 「同性でも……?」 「同性でも、だ。 此方の世界は睦まじくあることが第一だからな」 「……………」 「情が通じあっていて、お互いを慈しみあえているなら問題は何一つない」 心の奥にある畏れを、鬼は分かっているのだろう。 「お前が抱える情を、あの男にしっかり向けてやれ。 お前が亭主無しでは駄目なように、亭主もお前が居なければ生きる根っこが無くなる。 お互いに根っこの通った関係を築いていけ。分かったな?」 「はい……」 「たまにはあの美味い菓子もな」 「は、はいっ」 「楽しみにしてるぞ」 「あっ、ありがとうございましたっ」 「じゃあ、な」 ニコリと笑い、鬼は虚空に消えた。

ともだちにシェアしよう!