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◆◇◆◇◆
翌朝。
何となく呼ばれたような気がして、咲良は石庭に来た。
穏やかな笑みを浮かべ、鬼が頷く。
「………………ふむふむ。
ちゃんと味見をしてもらえたようだな」
「味見……?」
「らぶらぶちゅっちゅ出来たんだろう?
色香が駄々漏れしてる」
「ふあ?!」
何となく意味が分かって、顔がボフッと熱くなる。
「姫はな、慈しまれてなんぼだ」
「……………」
「鬼もな、姫からの情を受けてやっと一人前だしな」
「………………ご祭神さま」
「ん?」
「わたくし、頂いた匂袋を無くしてしまいました。
もしかして、それで守弥さまがおかしくなったのでございますか?」
「ん?
あれは俺が回収しといた。
他の奴が発情したらまずいしな。
ああ。亭主がおかしくなったのは、お前がエロくて堪えきれなくなった証だ。安心しろ」
「……え…………っ」
「漸く本来の姫と鬼の状態になったんだ。
あとは、お互いに想いあって関係を構築していけばいい」
「………………はい……」
俯く咲良の頭をそっと撫でる。
「睦まじくあることは罪ではない。
寧ろ喜ばしいことだ」
「同性でも……?」
「同性でも、だ。
此方の世界は睦まじくあることが第一だからな」
「……………」
「情が通じあっていて、お互いを慈しみあえているなら問題は何一つない」
心の奥にある畏れを、鬼は分かっているのだろう。
「お前が抱える情を、あの男にしっかり向けてやれ。
お前が亭主無しでは駄目なように、亭主もお前が居なければ生きる根っこが無くなる。
お互いに根っこの通った関係を築いていけ。分かったな?」
「はい……」
「たまにはあの美味い菓子もな」
「は、はいっ」
「楽しみにしてるぞ」
「あっ、ありがとうございましたっ」
「じゃあ、な」
ニコリと笑い、鬼は虚空に消えた。
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