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「今は我慢しておく。……が」
「………」
引いていくのは達した余韻か、血の気なのだろうか。
「1日2日の話じゃない。
大事な対が千年単位で呪いを打ち消そうと頑張ってきたのを知って、鬼が平静を装える訳がないだろ。
大事にするのは当然だとして、めっためたに甘やかしまくるくらいは覚悟して貰わないとな」
脱いだ寝巻きを寝台の下に放り、守弥がゆるりと覆い被さる。
無体な真似をしないと分かってはいても、胸が逸って仕方ない。
「………っ、違うのです…」
「何がだ?」
「確かにわたくしは呪いを打ち消そうといたしました。
でも、こんなに時間がかかってしまったのは、わたくしの要領が悪かったからなのでございます」
「んなことあるか。
あれだけの濃度の呪いだぞ?
内側だけじゃなく体の表層まで侵食していた強力なやつを、たった一人で相殺するなんて並大抵の事じゃない。
簡単な事じゃない」
「………っ」
至近距離で見詰められて、心の臓が口からまろび出てしまいそうだ。
大事な人の魂魄だからこそ、ずっと離さぬようにしていた。
必死になって浄化しようとして。
「早くお返しせねばと、焦れば焦るほど上手くいかなかったのです。
何度も何度も失敗して、飲まれて……何度目かの生で神仏のご加護を…」
それからは神仏の傍に常に在り、力を借りながら浄化してきた。
脇目を振らず、ただ一心に。
それで、漸く叶った…。
「わたくしにもっと力があったなら、もっと…」
目尻に滲む涙を守弥が吸い取る。
「悔いるのはもう無しだ。」
「………」
「全部終わったんだ。
あとは、婚儀をして今生も来世もそのまた次もずっと対になる」
「ぇう………」
「お前が危ない真似を二度と出来なくなるようにしとかないと、俺の心臓が持たないからな…。
もうな、滅茶苦茶蕩かしまくるし、徹底的に竜絡してやるからな。
………覚悟しろ」
「ひあ…っ」
かりり。
湯殿の時とは反対側の耳殻を軽く噛まれた。
程好く筋肉の乗った腕が咲良を包み込む。
誰よりも愛しく、常に傍に在りたいと願った人。
「………本当に、わたくしで宜しいのでしょうか…」
「お前以外誰がいるんだ」
「う………」
背中に腕を回すと、瞼に唇が落とされる。
「少しだけ婚儀の真似事をしようか…」
「………はい…っ」
甘さと熱をはらんだ息ごと唇が塞がれる。
体を繋がずとも、もう既に自分は守弥のもの…。
咲良は瞼を閉じて守弥に全てを委ねた。
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