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「は…?」 「ああ、台風が襲来したようですねぇ」 「え″、あ″!?」 空間をペロリと捲って顔を覗かせたのは、彼方の宮の宮司だ。 「ああ、すみません。 甘いひと時のお邪魔をするつもりは無かったのですよ。 思ったより台風娘の行動が早かったので」 「台風…?」 ほぼ寝覚めの頭が回らない状況を慮ってか、宮司が苦笑いをする。 「昨日、さらっと話した件です。 術が解けて弟の事を思い出した乱暴者が、ママチャリで山を二つ越えて来たようで」 「ママチャリで……山越え…!?」 「ええ」 立ちはだかる神職を薙ぎ倒しでもしているのか、派手な物音が続く。 どがーん!どーんっ! ズシン…!ズシン! 荊櫻ほどではないが、なかなかの重低音な足音だ。 「もうすぐ到達してしまいますので、身支度をした方がいいですよ」 「………は?」 「寝乱れたままだと、台風が更に荒れます」 「あ、ああ…」 これだけの物音を立てるなんて、どれだけゴリゴリのゴリラみたいな姉なんだと思いつつ、すよすよ眠る咲良に毛布をかけ直す。 「あなたの弟さんにも駆けつけるように連絡はしておきましたが、時間の問題ですかね」 「時雨が来てるんですか?」 「多分」 「だからっ、少しお待ちくださいと…っ」 「うっさい!そこどきなさいよ!」 「あああああ、ちょっと待ってやってくんないかな」 「だから!邪魔すんなって言ってんでしょ!!」 どごおっ! 「ぐは!」 ズシン、ズシン…っ! どんどん声と物音が近づいてきている。 ミシミシ…っ! ふしゅうううううう。 ミシミシ…っ!ミシミシ…っ! 部屋の扉が少しずつこちら側にたわみ始めている。 ミシミシ…ミシミシ…っ。 どごぉんっ! 見事に扉が吹っ飛んだ。

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