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どどどんっ! 扉と共に室内に雪崩れ込んで来たのは、宮司の知らせを受けて駆けつけた時雨や、泊まりで残っていた神職と付喪神や式神の皆さんであった。 壁や箪笥に纏めてぶつかり目を回している。 「だからっ、邪魔すんじゃないって言ってんじゃないのよ!」 ふしゅううううううぅぅぅ。 半ば瘴気のような陽炎を背負い、振り乱した黒髪の下で爛々と光る瞳。 ママチャリで山を越えて来たという、咲良の姉で間違いないようだ。 ズシン、ズシン…っ。 肩で息をし、吐いた息には怒気が濃く混じっている。 「さ、咲良…起きれるか…?」 「………んう…?」 いやいやをするように、咲良は毛布の中でかぶりを振る。 「咲良、お姉ちゃんが来てる。起きれるか?」 「………おねぇ、ちゃ………?………………………あねうえ…さま…?」 「うちのじゃなくて、咲良のお姉ちゃんだ」 「わた…くしの……おね………?……」 「そうだ。咲良のお姉ちゃんが来てる」 「………んぅ……、さく、や…?」 二人のやり取りを見下ろす咲耶の額には、極太の血管が浮いている。 「咲良、起きれるか?」 「んぅ……」 ふらつきながらも起き上がろうとする咲良。 が。 寝巻きの前があられもないことになっている。 起き上がるのに合わせて、守弥は寝巻きの袷を掴んで調整した。 「……………さく、や…?」 「………………あんた、………誰…!?」 寝ぼけ眼をこすりこすりしながら起きた咲良に、咲耶は口をあんぐり開けた。 確かに色合いは弟と同じ。 雪を連想させる白銀の髪と緋色の瞳。 だが、顔つきも背丈も全然違う。 体の左側にあった禍々しい色合いも消えている。 「ちょ、ちょっと!アンタ、ホントに咲良なの!?」 「ふえ…?」 せっかく守弥が体裁を整えたはずの袷をガバッと開く。 「いつの間にこんな背丈伸びてんの! つか、あの真っ黒の痣は何処よ!?」 寝ぼけていつもより無防備過ぎる顔は、昨夜の名残なのだろう。 気だるげであり、色香を漂わせたままの咲良。 露になった左肩や胸元、淡い色の胸の粒。 幼い姿しか知らない咲耶にとっては、弟との共通点が少ない。いや、少なすぎる。 一番気になっていた痣もない。 「あざ……。 ああ…、痣………? ええと………その……、………」 はて、なんと説明したものか。 呪いを引き受けて石になってましたとも言いにくい。 「こら!ちゃんと言いな!」 「その………………とても………強い風が吹いて……」 「風?風がどうしたのよ!?」 「風が…ビュウビュウ吹いて、……ええと……………何処かへ………………飛んで行ってしまいました…」 「は……?」 「えへ…」 顎が外れそうなくらいにあんぐりしている咲耶に、咲良はにこぉっと微笑んだ。

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