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汗だくの服は洗濯に回され、朝食を摂っている間に時雨が麓から持って来てくれた服を借りた。
外宮にあった姉たちのお下がりと、可愛らしい袋には新品の下着類が入っていた。
『なんでサイズがピッタリなのよ…。
下着もジャストサイズってどういうこと…?』
疑問は尽きないが、取り敢えず居間へ向かう。
途中で廊下に漂う甘い香りに惹かれて厨房に足を踏み入れた。
「あっ、上がったのですね、咲耶。
喉は乾いておりませぬか?」
「え、あ、大…丈夫」
巫女服ではない弟の姿に戸惑いつつも、咲耶は湯冷ましの入った湯呑みを受けとる。
「社務所の皆様にお茶とお菓子を置いてきたところなのです。
咲耶も何か食べませぬか?」
「え、あ、う…」
何かを喋ろうとしても、口からはぎこちない音しか出てこない。
勝手に記憶を消す術をかけたり生け贄になろうとした弟…。
生死の有無が分からないが、もし無事ならこっぴどく怒鳴り付けてやろう、本当に食べられているなら鬼を徹底的にぶちのめしてやろうと勢いのまま家を飛び出して来たのだが、当の咲良は知らぬ間に成長してしまっているし、懸案だった痣も綺麗に無くなっていた。
一体、何のために自転車をかっ飛ばしてきたのか…。
「彼方の宮にいた時も、習い事や塾の合間に会いにきてくれましたね…」
「へ…?」
「山を二つ越えて来てくれたなんて、わたくし嬉しくて仕方ないのです。
しかも、髪がボサボサになる位の勢いでだなんて」
「え…、いや、その…」
「もう二度と会えないと思っていたのに、こうして会いに来てくれた。
嬉しいです。咲耶」
「う、………」
どうしよう。
勢いのままに怒鳴り付けて拳骨の一つでもくれてやろうと思っていたのに、咲良は姉の来訪を素直に喜んでくれている。
返答につまっている咲耶を、咲良は囲炉裏の傍へといざなった。
いつもは囲炉裏の近くで寛いでいる付喪神達の姿がない。
代わりに、小さなアルバムがいくつも積み重ねてあった。
「これ…、全部アンタの写真なのね」
「おばあ様や皆様が撮っておられたようです。
わたくしが不在の折りにご覧になっていたと…」
「何処かへ行ってたの?」
「……まぁ、そんなところでしょうか…」
曖昧に濁してみる。
流石にいきなり石になっていたとはまだ言いにくい。
積もる話は順を追ってだ。
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