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「双子の片割れとして生まれてきて、何一つ誰の役にも立てていない自分に対しての憤りや悔しい気持ちもありました。 今なら役に立てるかもしれない。 少なくとも、わたくしであれば耐性があるだろうと思ったのです。 宮司さまから教えて頂いた術もありまする。 その中には、身と魂を分かつものも…。 ならば、身は死したとしても魂魄を分離してしまえばあの宮へ還れる…。 体というものが無くなれば、風に乗って春日の家にも飛んでゆけるかも知れない…」 「咲良…」 自嘲めいた表情の弟を見るのは初めてだ。 咲耶は一瞬息を飲む。 「写真でしか知らない弟や妹たち、お父様やお母様の傍へ行っても、魂だけであれば怖がられたり厭わしいと思われずに済むのではないか。 わたくしの姿が見えなければ、恐ろしいものを見るような目で見られることもないだろう…と。 生け贄になることで、漸く認めて貰える好機が来たのかもと、チラリと思ったのもありますが…」 咲良は、ゆっくり息をつく。 「今となっては、身勝手なただの自己満足や単なる我儘に過ぎませぬけれど、わたくしをいつも気遣ってくれる大好きな咲耶を永遠に失いたくなかった…。 それが一番の理由でした」 「なんなの、その訳の分からない確証とか思い込みは」 自分はそんなに柔ではない。 鬼に拐われたとしても、徹底的にぶちのめして帰るだけだ。 「本当に申し訳ありませぬ。 咲耶を怒らせたり、悲しませたりするつもりはなかったのです。 あなたの気持ちを無視して、勝手なことをして…」 「……分かってくれたら、それでいいのよ」 「………」 言いたいことは山ほどある。 それこそ、拳骨を落として怒鳴り付けてやるくらいには。 でも、悄々とする咲良を責め立てるのは何か違う。 「自分の命もちゃんと大事にしてよ」 「………っ、はい…っ」 咲耶はホッとした。 自分がそうであったように、咲良自身も家族として傍にありたいと願っていたことを聞いて。 見た目こそ浮世離れしていても、やはり心は普通の子供と同じであったのだと。

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