560 / 668
・
モグモグと甘味を頬張っていた咲耶の証言はこうだ。
いきなり咲良を思い出した。
自分の身代わりで鬼に食べられに向かったなど。
しかも、半年も経っているなど…。
大きく動揺し、直ぐにでも向かいたいと思った。
だが、宮司がピシャリと止めにかかった。
『冗談じゃない!
明日の朝なんて待ってられるか!』
生け贄になりに向かった咲良が無事であるかは分からない。
いや、とうに命はないだろう。
弟を食ったであろう鬼は許さん。
ぶちのめしてやらねば!
ふつふつと沸く怒りで視界が揺らぐほどだった。
夜が明けきらぬ時間に咲耶は家を出た。
宮司がいつ来るのか分からないし、待っていられるものか!と。
宮司がいる宮まで自転車で駆けた。
「待ってらんないわよ、クソジジイ!咲良が何処に行ったか吐け!早く!」と叫び、止めようとする神職達を片っ端からぶん投げた。
「なんとまあ、こんな時間に」と不機嫌な宮司からメモを引ったくるように受け取って、咲耶は来た道を引き返した。
そこから、怒涛のママチャリで二つの山越えとなったのだ。
『そりゃ、生死の有無も言わずにピシャリと言われたらねぇ…』
『明朝来ますってなぁ…』
『それこそ蛇の生殺しだべよ…』
『寝れもしねぇし、明け方飛び出してくんのも仕方ねぇなぁ…』
物陰から見守る式神や付喪神たちも、咲耶の剣幕に納得するのだった。
ともだちにシェアしよう!