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「あの、……どうぞお召し上がりを…」
落ち着きを取り戻しつつある春日の両親の前に、お茶と甘味が出された。
「あっ、ありが…とう…、?」
「………?」
お茶を受け取った二人は一瞬固まった。
白銀の髪に緋色の瞳が、亡き息子と同じ色合いだったからだ。
「咲良も大きくなれていたら…」
「こんなふうだったかしら…」
ほろりと涙をこぼす両親に、咲良はどう説明したものかと悩む。
「お父さん、お母さん、目の前にいるのが咲良よ」
「…は?」
「え…?」
いや、どう見ても違う。
あの日鬼と共に旅立った姿は七歳の頃と変わらぬもの。
目の前にいる人物は咲耶と同じ年回りに見えるし、左側に散っていた黒い痣がない。
「咲耶、からかうのはよしなさい」
「そうよ。咲良は七歳の頃から背丈も伸びていなかったし、あの痣もないじゃないの。
この方に失礼でしょ」
「だから、その子が咲良なんだってば」
「「は………?」」
なにをふざけてるのだと言い募ろうとする二人に、咲良も目を泳がせる。
「駄目だろう?
ほら、こんなに困ってるじゃないか」
「そうよ、咲耶ったら…」
「ホントなんだって。
こら、咲良!自分でちゃんと言いな!」
「え、あ、あうぅ…」
どう切り出せばいいものか。
困り果てている咲良に、両親の後ろから守弥が声をかける。
「娘さんの仰有る通りです。
あなたがたの前にいるのが咲良で間違いありません」
「「え…?」」
「信じがたいでしょうが、本当です。
約半年で背が伸びて今の姿になったんですよ」
「本当に?」
「咲良?…本当に咲良!?」
「は、はい…っ」
よくよく見れば、幼い姿の頃の面影が残っているような気がする。
「良かった…。
あの時の鬼が大事にすると言っていたけど、きっともう…駄目だと思って…」
「お母様…」
「生きていてくれて良かった…良かった…っ」
「お父様…」
頬に触れても、手に触れてもすり抜けない。
幽霊でも幻でもない。
本当に目の前にいるのが信じられなくて、両親は咲良をぎゅうぎゅうと抱き締めた。
「………っ、嬉しゅうございます…っ」
此方へ来て、守弥や家族達にぎゅうぎゅう抱き締めてもらったりはしていたが。
実の両親に抱き締めてもらうのは、これが初めてだった。
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