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花の形の黒い痣。 気がつくと一つ、また一つと増えていった。 宮司のもとを訪れる度、咲良の痣は増えていくばかりで。 不吉な色合いも相まって、両親はどうしても触れることができずにいた。 「ごめんなさいね…。 さぞや私達の事を恨んでいるでしょう?」 「いえ、そんな…」 「隠し宮へ預けっぱなしで、会いに行くこともなかった。 本当に、すまなかった」 「もうそれは…仰らないでくださいませ…」 咲良は分かっていた。 おどろおどろしい伝承を聞かされ、生まれた子供に不吉な印があれば、きっと誰でもそうなると。 怖れる心や後ろめたさが先に立ち、どんどん足が遠退いてしまったと。 それを責めたりする気持ちなどない。 「よいのです。 わたくしは恨んでおりませぬ。 いま、こうして抱き締めてくださった。 それで十分でございまする」 「「………っ」」 家族に会えないことや一緒に暮らせないことは寂しかった。 とても…。 どれだけ隠し宮の式神や付喪神たちに囲まれて暮らしていても、家族の温もりを知らない事実は変わらない。 忌むべき印を背負ってこなければ。 咲耶と同じ色合いであったならと、思わなかったわけではない。 自分に対して苛立ちを覚えはしても、両親に向けるべきものではないのだと咲良は思っていた。 両親を責める気持ちは、初めから持っていない。 「恨んでおりませぬ。 わたくしをこの世に送り出して頂いた…。 こうして、ぎゅうっと抱き締めてくださった。 それでわたくしは幸せでございまする」 にこっと微笑むと、咲良は二人の背に手を回した。

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