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「まぁまぁ、そんなに慌てて帰るのもどうなの。お昼ご飯食べませんか」と、時雨は春日の両親を引き留めた。 咲良と守弥、ばあ様が腕を振るった品々が並ぶ食卓。 ごくごく一般家庭でみられる料理だが。 「う、うま…っ!」 「この焼き魚、……美味しいっ」 「ご飯が…っ、一粒一粒がツヤツヤして立ってて美味しい…っ!」 「煮付けも漬物も、全部美味しい!」 両親も咲耶もその美味さに悶絶した。 元々隠し宮にいた頃から咲良が厨房に立っていたと聞き、驚きを隠せないでいる。 「彼方の神職の皆様があまり料理が得意ではなくて…。 少しずつ教えて頂いたのです。 お口に合って良かった…」 と、照れながら話す。 こうして同じ食卓について一緒に食事をとるのも初めてだ。 春日の家に対してあまり良い感情を持っていない宮司に育てられたから、さぞや冷遇されてるであろうと思っていたのだが…。 実際は穏やかな気性も表情も好ましく、所作も綺麗で、隠し宮で大事に育てられたのだなと伺い知れた。 「ここでも可愛がって頂いてるのね」 「え、あ、う…、はい…」 顔を染めて俯く。 隣に座る長身の男性が「良かったな」と声をかけると、咲良の表情がより和らぐ。 「………?」 なんとなく、記憶の片隅でひっかかるものがある。 『もしかして…』 『咲良を迎えに来た鬼に声が似ているような…』 『まさか、ね…』 だが、それを口にしないでおく。 気性の荒い咲耶が暴れてしまいそうだから…。

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