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「ねぇ、咲良」 「はい」 「背丈が伸びたのは何よりだけど、痣はどうしたの?」 「え、あ、……ぅ」 母の問いかけに咲良は固まった。 「あの、その…」 遠い遠い昔の事を話すのも憚られる。 ましてや、呪いを肩代わりして石になっていたとも言いにくい。 言い淀む咲良の代わりにばあ様が口を開いた。 「あの日は五穀豊穣を祝う祭りでねぇ。 舞いへのご祝儀の花がこう、舞台へ降り注いだのと一緒に結構な風が吹いてねぇ…。 舞いを舞っていたさくらの周りをびゅうびゅうしてったねぇ」 「風が…ですか?」 「そうなんだよ。 結構な勢いの風がこう…」 ばあ様の身ぶり手振りの話しに両親はふむふむと聞き入っている。 守弥と時雨はうんうんと頷き、話を合わせるべく構える。 「そしたらねぇ、痣がはらはら~っと剥がれて花びらと一緒にひゅう~っと」 「ひゅうっと?」 「飛んでっちゃったねぇ」 「飛んで…」 「飛んでった…?」 「そうなんだよ。 ひゅう~っと飛んでっちゃってねぇ。 ばばもびっくりだよ」 「「………」」 お茶をひと口飲み、ばあ様はにっこり笑う。 「あの日の舞いも本当に見事なものだったんだよ。 さくらはご祭神さまの覚えもめでたい子だし、いつまでも可愛らしい顔に痣があるのを良しとは出来なかったんだろうねえ。 見事な舞いへのご祝儀とばかりにびゅうびゅう鳴るくらいの風が吹いて、持ってっちゃったねぇ」 「……そうなの?」 「え、ええ、まあ…」 曖昧に濁して左の袖を捲る。 黒子一つない綺麗な肌だ。 「顔も腕も…」 「背中や足のも?」 「ええ。 流石に全身はだける訳にはいきませぬが、黒い痣はもう一つもありませぬ」 「そう…、そうなのね…」 自分達家族の災厄を引き受けた代償の印。 それをご祭神が剥がしてくれたという。 服を捲って見れる範囲には痣は残ってはいない。 以前は後ろめたくて正視していなかったせいもあるが、こうしてまじまじと見るのは初めてだ。 「今更だけれど、もっと咲良に会っておけば良かったわ…」 「………?」 「小さい頃預けたっきりで…」 「時間は戻せないし、りあるたいむは難しいけどね。 ばばの秘蔵のこれくしょんがたんとあるよ。 見てみるかい?」 しょんぼりする両親にばあ様と時雨がウインクをした。

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