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身代わり贄の花嫁
山々を錦のごとく彩っていた紅葉が落ち、寂しくなった枝に雪の花が咲いた。
泉の傍らに立つ枝垂れ桜にも…。
「なんて美しいのでしょう…」
ほうと息を漏らし、咲良は空を見上げる。
山の中腹にある本宮にも本格的な冬が来たのだ。
昨年の冬は隠し宮にいた。
あの頃は巫女服に雪駄で雪の庭に出ていたが、今年は守弥が見立ててくれた洋服とブーツで雪の庭にいる。
「あの頃のわたくしは、このように周囲が劇的に変化するとは…」
どうにか春までに咲耶の身代わりになれぬものかと考えていた一年前。
今は守弥との婚儀を控えて少しずつ準備をしてながら、新年を迎える準備…。
そしてもう一つの準備をしていた。
「わたくし…本当に馴染めるのでしょうか…」
先日、守弥がいる大学を含む学園都市に行き、基礎的な学力のテストを受けた。
年齢に見合った学力であり、咲耶と同学年のクラスに編入との結果が届いたところだ。
ただ、その通知に付随していた書類には「同時に神社仏閣への知識を生かし、大学部への所属もお願いしたい」との文言があった。
年が明けて冬休みが終われば、咲耶が通う中学校にお試しで通うことになっているが、不安は尽きない。
初めての集団生活…自分の見た目は確実に周りから浮いてしまうであろう。
虐めは無いと思いたい。
自分からとけ込む努力をせねば。
如何にして馴染むか。それが大問題だ。
守弥に恥をかかせる訳にはいかない。
勿論、咲耶にも。
「馴染めなかったら…守弥さまが心配されますし、咲耶が暴れてしまうかもしれませぬ…」
守弥は気を揉むだろうし、ずっと離れていた弟の咲良を気遣う余り、咲耶が周りに威嚇したり感情を爆発させてしまわないか。
「それでは、わたくしだけでなく咲耶まで浮いてしまいまする…」
それだけは避けたいところだ…。
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