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あれこれ方策を練っても仕方ない。
守弥にお伺いを立てるのが一番早いと言う話になった。
先ずは社務所から戻って来たばあ様に聞いてみる。
「ふむふむ。
それはそうだねえ。
咲良が困ってるなら、ばばも見逃せない」
「守弥さまはお許し下さるでしょうか…」
「許してくれると思うけどねぇ…。
今まで何の障りも無かったから誰も言わなかったけど、こうして困ってるなら話は別になるよ。
守弥ならちゃんと聞き入れる筈だし」
日常生活に障りが出るとなれば、そこまで強要したりはしないとばあ様は答える。
「神楽舞いにも触りはありませぬか…?」
「そこもばばは大丈夫だと思うよ」
「私も大丈夫だと思うんですがね」
囲炉裏を囲んでいると、大学から守弥と時雨が戻って来た。
「ただいま~」
「おかえり、時雨」
「ただいま」
「おかえりなさいませ」
「ああ。
………?どうした?何か困った事でも…」
「対の事には察しが良いですねえ」
「………?」
怪訝そうにしている守弥を促し、とりあえず皆で囲炉裏を囲む。
ばあ様、宮司、時雨、咲良を膝に乗せた守弥。
その周りで好奇心満載の付喪神達が見守っている。
「かくかくしかじかで…」
「そりゃ困るねぇ。
蹴っ飛ばされたらお互い気まずいもんねぇ」
「そうなのです。
でも、毎日お手入れして下さる守弥さまのお気持ちを考えると…」
「……俺は別に構わないが」
「ほえ…?」
意外な返答に咲良は目を見開く。
「髪が今の長さだろうが短くなろうが、俺が手入れするのは変わらない。
切った髪は残しておいて神楽舞いの時に髢(かもじ)として使えば問題無いと思うんだが」
「そうだね、それがいいよ。
ばばも賛成だよ」
「俺も~」
「私もそれで良いと思います」
「………本当に?まことに…?」
「ああ。
日常生活に支障を来してまで無理に伸ばさせる訳にはいかないからな。
勿論、断髪とカットは俺がする。
毎日のケアもしっかりさせてもらうし、髢にした方も定期的なメンテナンスは譲らない。
それでいいなら俺に依存はない」
「守弥さまが良いと仰有るなら、わたくし…」
守弥の返答に漸く安堵した咲良。
「髪を切って新しいスタートなら新月もありだけど、年明けにとてもいい日取りがあるねぇ。
ばばはその日がいいと思うよ」
「ああ、この日ですね。
吉日が重なってます」
髪を切る日取りも決まった。
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