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人前でスキンシップをするのははしたないこと。 守弥と二人だけの時のもの。 そう思っていた咲良にとって、瑠維達から教わった事は目から鱗がポロポロ落ちるものであった。 だだ、素直に行動するといっても度合いがある。 もしよろしくない時はちゃんと言って欲しいとばあ様に伝えて、咲良はいろいろ試すことにした。 ばあ様は咲良に対してとても寛容なので、こちらと隠し宮の雲外鏡を繋いで宮司にも塩梅を見てもらえる事になっている。 今のところは、ダメ出しをされてはいないが…。 「守弥さまに喜んで頂けるように…。 周りの皆様に安心して頂けるように…」 無理にするのではなく、その時に思ったことを行動に移す。 そう心に決めて、今日も実行に移してみる。 「………」 社務所から外に出る。 冷えた空気は氷点下まで下がっているのだろう。 待ちきれなくて熱を帯び始めた体を冷ますのに丁度いい気がする。 木々の隙間から見える星々が瞬いている音なのか、空中の水分が凍っていく音なのか、不思議な音がする。 「あ…」 微かなエンジンの音が近づいてきた。 駐車場に一台の車が停まる。 防寒ブーツに履き替えた守弥が降りてきた。 助手席から時雨も降りる。 降り積もった雪を踏み締め、そうっと近づき守弥の背中に抱きつく。 ぽふんっ。 「………っ」 「…おかえりなさいませ…」 「ただいま」 回された手に触れ、咲良を前に誘導する。 「日が落ちて冷えて来てるのに…」 「なんてことはありませぬ」 「手も頬っぺたも冷たいぞ、本当に大丈夫なのか?」 「ふふ…っ、大事ありませぬ…」 頬に触れる手が暖かくて心地いい。 守弥がジャケットを脱いで咲良を包むまでの一連の流れを目撃した時雨が、だばだばと鼻血を流したのは言うまでもない。 「かっ、かわ…っ! なんなのこの可愛さ! 兄さんの手に頬っぺをスリッとしちゃったりさ、甘え方がもう爆萌え…っ! いいわー。尊い…尊いぃ…っ」 「………お、おい…」 「時雨さま、これを…っ」 「あー、ありがとねぇ。 いやー、いいもの見せてもらったわ…」 懐紙で鼻を押さえると、時雨がニコニコしながらサムズアップをしてくれた。

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