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◆◇◆
年越しと初詣で大わらわだった本宮に漸くいつもの日常が戻って来た。
「いや~、今年は御朱印の数が凄かったねぇ」
「さくらがいなかったら、どうなってたか…」
地元のタウン誌で市内の神社の御朱印特集が組まれたからか、今年は御朱印の申し込みがかなり多かったのだ。
「いつもの年と同じめんばーだったら、夜中になっても終わってなかったかもだねぇ…」
「おおぉ…」
「恐ろしい…」
時雨とばあ様がブルブルしている。
「わたくしはそんなに大したことはしておりませぬ…。
付喪神と式神の皆さまのおかげでございまする」
本宮に住まう付喪神とばあ様の式神達がノリノリで大判を押すのを手伝ってくれたのだ。
ばあ様が席を外している時には、式神に変装したご祭神である鬼もシレッと混ざっていたのは内緒だ。
ばあ様はなんとなく気づいていたようだが、守弥や時雨には全く気取られることもなかった。
大わらわの社務所での出来事を思い出す。
「ご、ご祭神さま…っ」
「これこれ、騒ぐな。ちょっと様子を見に来ただけだ」
人差し指を立てて、声を抑えるような仕草をする。
「ほほう…。
お守りや破魔矢の売れ行きも上々のようだな。
どれ、ついでにお主の亭主も見ていこうか」
「………っ」
「ほうほう。
なかなかの男振りだな。
お前が一目惚れするのもうなずける」
「……っ、ぇ……ぅぅ…」
「スキンシップとやらもしているだろうに、そういうもの慣れないところがまた初い。
亭主もたまらんだろうよ」
クスクス笑い、特別な大判を押すのを手伝ってくれた。
ばあ様が戻って来る少し前にさりげなくスウッと消えてしまったが、なんとも楽しそうであった。
ご祭神がこのように気軽に現れるなど、咲良は聞いたことがない。
見た目が青年風だからか、本当にフットワークが軽いようだ。
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