605 / 668
・
試練の際にも何かと気にかけてもらっていた。
守弥が好きで好きで仕方なくて、どうしたらよいかと悩んでいた折りにも。
何か特別に御礼をせねば…!
どんな御礼が良いかと聞いてみたことがあるのだが、咲良が拵える菓子がいたくお気に召しているようで、毎度「ん?なぁに特に礼など必要ない。それより、美味なる菓子が楽しみだ」としか返答がない。
せめて材料を吟味したものにと思っても、「お主の使い慣れた材で構わぬ」と言う。
ばあ様に相談をした事があるが、ご祭神さまがそれで良いとの仰せであれば従った方がいいとのこと。
ならば、材料はごく一般のものを使うとして、真心の籠った菓子を作ろうと頑張っている。
とてとて歩いて来たのは厨房。
今日拵えるのは餅菓子だ。
定点カメラと手持ちのスマホでばあ様が撮影を始める。
御用田で採れたもち米を分けてもらい、昨日丁寧に挽いていた。
餅粉を蒸かし、黒砂糖を足しながら練っていき、棒状に伸したものを切り分ける。
黒糖餅が出来上がった。
次に白玉粉をレンジで蒸して練っていく。
小分けにしてこっくりとした甘さの餡を包み、木ベラで筋を入れて食紅で色を差す。
「おや…。
美味しそうな餅菓子だねえ」
出来上がった黒糖餅と、ウサギを模した大福餅。
「上品な洋菓子もいいけど、さくらが作る和菓子は目と舌で楽しめるねぇ」
「美味しそうに見えまするか…?」
「もちろん。
どんどん腕を上げてるから、ご相伴に預かる楽しみが増えていくねぇ。
今日のも心が籠ってるのが良く分かるよ。
仄かにふわぁっと光ってる」
「まことに…?」
「本当にそう見えるよ」
「嬉しゅうございまする…」
菓子器に盛り、抹茶を添える。
「では、行って参ります」
「うん。行っておいで」
抹茶を溢さぬようにしずしずと歩く。
本殿に向かうのを察した付喪神たちもその後ろについていく。
今日は本殿の扉をご祭神自ら開けてくれた。
ともだちにシェアしよう!