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「は、え、ふえぇぇぇぇっ!?」 驚きを隠せないでいる咲良をご祭神が招き入れる。 「はっはっは。 驚かせて済まぬな。 待ちきれなくて、つい開けてしまった」 悪戯っぽく笑み、ウインクをする。 「ほほう…。 なんとも美味そうだ…」 「お気に召していただけたら嬉しいです」 「お気に召すもなにも…。 初めから楽しみで仕方ないのだ。 どれ、一つ頂こう…」 はむっ。 「おおお…。美味い…」 顔を綻ばせてもうひと口。 「うむ…。 黒糖の餅、なかなか…」 付喪神にもお裾分けし、ニコニコしながら頬張る。 「美味い…。 どれ、今度はウサギの大福を」 はむっ。 「うまい…っ この餅と餡のバランスがたまらぬ…」 「お口に合って良かった…」 餅も抹茶も喜んで貰えて、ホッと胸を撫で下ろす。 ご相伴に預かる付喪神たちの表情もホコホコしてきた。 「お主の作る菓子は本当に美味い。 義務的に作っているなら、こんなふうに美味くはならない。 一つ一つの工程に心を込めているのが分かるぞ。 おばばも言ってただろう? 光って見えると」 「………っ」 「我らにはキラキラと光を纏っているように見えるし、実際に食せば霊力や神気が高まる」 「そうなのですか…?」 「ああ。 ほれ、付喪神たちもほわほわしてきてるだろう?」 「………」 ひと口、またひと口と食べ進める度、付喪神も鬼もふわぁっと光を纏う。 「美味しく仕上がるよう、食べる相手に喜んで貰えるよう心を込めて作っているからこそだ。 自信を持て。 亭主の身も心も、ついでに胃袋もガッチリ掴んでやれ」 「は、はい…っ」 自分が作るものを喜んでもらえる。 こうして心待ちにしてもらえていることが嬉しくて、咲良は嬉しくて仕方ない。 明日も明後日もその先も…。 沢山喜んで貰えるように、心尽くしの料理や菓子を作っていこうと、咲良は改めて思ったのだった。

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