607 / 668

「そういえば」 「………?」 「この綺麗な長い髪も一旦見納めになるのだったな…」 「はい…」 「勿体ない気もするが、一般の男子の日常生活には無いからな。 女子でもここまで長い髪は維持出来ぬし」 「………はい」 普通の男子より少し小柄だとはいえ、足首近くまで髪が長いのは日常生活に差し障りも出てくる。 「切った髪は亭主が手入れしてくれるのだったな」 「はい」 「元々生真面目なところがあるようだが、お前の事に関しては本っっっっっっ当に一つも譲る気がないっぽいぞ」 「ふえ…?」 「まぁ、それだけ惚れてるということだろうし、鬼としては正しい在り方かも知れないな」 「………」 柔らかく微笑み、咲良の頭をぽんぽんする。 「呪いの塊を長い間抱えてここまで来たお前の心の領域は、多分鬼よりももっと広い。 鬼夜叉の上の子をも凌駕するだろう。 そこに日々凝縮するように想いを詰めていってるからな…。 きっと来世からはなかなかの子沢山になるぞ」 「ほえ…?」 「件の鬼夜叉がそうだな。 前世で男同士の夫婦が築いた愛情が深ければ深いほど、来世でのもうける子供の数は増える傾向にある」 「や、やや様を…?」 「ああ」 「今生での愛情は決して消えない。 お前の魂に馴染んで溶け込み、来世へ。 そのまた来世へとつながる。 鬼の溺愛っぷりももっと深くなる。 鬼と対はそういう関係だからな。 満更でもないだろう? あの亭主に囚われるというのも」 「………っ、ぇ…、……ぅ…」 さすがご祭神だ。 咲良自身が守弥だけのものでありたいと願っていることもお見通しなのだろう。 「取り敢えず、今生は亭主にがっつり一人占めしてもらえ。 気が済むまで………気が済むかな…」 「………」 香久良から咲良までの2000年、ずっと呪いを打ち消すべく抱えてきた魂の核。 それが漸く戻ったことで更に思いの深さを知ったであろうし、咲良までの痕跡を追って時間を遡って思うこともあっただろう。 「ここまで繋がりの深い鬼と対は例がないが、お互いに想い合っていれば問題ないだろ。 お前自身が亭主に囚われるのを望んでいるしな」 「………」 いまのまま、ありのままで守弥に尽くしていく。 それでいいのだと祭神は教えてくれた。

ともだちにシェアしよう!