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本殿から辞して厨房へ戻ると、ばあ様がニコニコしながら待っていた。 「今日もご機嫌だったようだねぇ」 「はい」 「今日はとびきり美味しかったんだねぇ」 「………?」 「髪を結わえてる元結(もとゆい)に綺麗な花が挿してあるよ」 「ほえ?」 「わし、わしがおるぞ!」 雲外鏡がトテトテ歩いて来た。 硯や扇子の付喪神たちも後に続く。 「失礼いたしまする」 雲外鏡を持ち上げて覗き込むと元結の輪の部分に可愛らしい花が挿してあった。 「さくらに抱っこして貰うの、ときめくのう。 ついでに激写もできる」 「おや、役得だねぇ。 それにしてもさくらはご祭神さまの覚えがめでたい。 淡い色だけど、とても綺麗で可愛らしい花を選んでくれたみたいだよ」 「わたくし、全然気づきませんでした…」 「さりげなく挿したんだろうねぇ」 「あの兄ちゃん、さくらが可愛くて仕方ねえみたい」 「さくらを構うのも楽しいみたいだ」 「でも、守弥をいたずらに刺激はしたくないみたい」 「あ、それオイラも気づいてた」 きゃわきゃわ語り合う付喪神たち。 「………ぁ」 道の駅の前を守弥の車が通りすぎた。 それを感じて顔の向きを変えた瞬間。 ピキ………。 しゃああああん…。 「ほえ?」 元結に挿された花が砕けて大気に解けていった。 「ありゃ~」 「守弥の気配で砕けちゃったな」 「兄ちゃん、空気読むなぁ…」 「は、はわ…っ」 せっかく挿して貰った花を守弥にも見てもらおうとしていたのだが、何故か砕けてしまった。 「取り敢えず、出迎えに行っておこうか」 「はっ、はい…っ」 もこもこのアウターを持って咲良が玄関へ向かった。

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