609 / 668

アウターを羽織り、ブーツを履く。 ニットのミトンをつけて外に出た。 「っ、…ぅ」 びゅおおおおお! 地面の雪を巻き上げて風が吹きつけている。 北国特有の地吹雪だ。 「……っ」 爆弾低気圧特有の息もしづらい勢いの風を避けようとしていると、下から眩しい光が上がってきた。 「ふえ…?」 いつもはゆっくりめなのだが、今日は何故か慌てているように早い。 吹きだまりの雪を蹴散らすようにしながら駐車場に車を停めると、そのまま守弥が降りてきた。 「咲良!」 「守弥さま…?」 膝よりも上まで積もった雪をなかばハードルを跨ぐように大股で駆け寄ってくる。 「あああ…やっぱり外に出てたんだな」 いつもと違うとても焦った表情に心臓がトクリと跳ねる。 「守弥さまのお車が道の駅の前を通りすぎたように感じましたゆえ…」 「そうか」 ジャケットの前を開けてギュウっと抱きしめられる。 「はにゃ…」 安心する香りが鼻孔を満たして、体の力が抜けていく。 「俺もな」 「………?」 「咲良が玄関から出て来て地吹雪に巻かれてるような気がして車を飛ばしてしまってた」 「………っ」 細かい雪がジャケットにバチバチと当たる音がする。 「迎えに出たいのも分かるが、吹雪の時は無理をするな」 「はい……」 地吹雪で周りから見えない分、ぎゅうぎゅうと抱きしめられるのが嬉しい。 「だが」 「………?」 「迎えに出てくれてありがとうな」 「はい…っ」 恭しく玄関の中へ運ばれるまでの間守弥の首筋に額を押し当てて、香りを胸いっぱいに吸い込む。 その一連の流れを、車のエンジンを切って荷物を運んでいた時雨と、きっちり防寒対策をしたばあ様が激写していたのは言うまでもない…。

ともだちにシェアしよう!