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ひょろー!ぷぎぎー!ぴげー! 二人の演奏が進むにつれ、居間の障子がガタガタ揺れだした。 ぴぎー! ガタガタガタ! ひょろー!ひゃー! ミシミシミシ……! 障子どころか、天井や窓、床が軋んでいる。 終いには天井から付喪神達がボタボタと落ちてのたうち回り、式神たちは部屋の隅で悶絶する始末。 「そろそろやめておこうか」 「お、おう」 「う、うん」 二人が吹くのを止めると、障子も窓も大人しくなった。 「いやいや、毎年のことながら、なかなかの苦行だったの」 「耳がもげそうだ」 「同じ吹かれるなら、篳篥とて代役のほうがいいと思ってるにちがいない」 いつもは温和な式神が、渋面をこさえて呟く。 「だから嫌だったんだよ。 ばあ様、やっぱりCDかけて済まそう?」 「大事な祭りでCDの音を流す神社が何処にあるんだい……」 ばあ様は痛む額に手を当てる。 「竜笛と篳篥が壊れている訳では無いのですね?」 「多分。さくらは吹けるかい?」 「ええ……。一通りは……。 守弥さま、少しの間拝借いたしまする」 「あ、ああ」 ひゅう~。ひい~。ひゅう~。 「確かに。 狂いはありませぬ。おばあ様、譜面をお借りいたしますね」 ひい~、ひゅう~。 先程守弥が吹いていた物と同じ篳篥だとは思えないくらい、美しい音が響く。 最後まで吹ききるころには、気絶していた付喪神が目を開けていた。

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